TOP > 地域情報紙 > ヨコハマ想い vol.14 振付家・舞踊家 中村 恩恵さん

ヨコハマ想い


「愛」
振付家・舞踊家 中村 恩恵さん

profile
1970年生まれ、横浜市出身。1988年ローザンヌ国際バレエコンクール・プロフェッショナル賞受賞。モンテカルロバレエ団、ネザーランドダンスシアターなどに所属し、ヨーロッパを中心にダンサー・振付家として活躍。2007年からは日本に活動拠点を移す。11年に第61回芸術選奨文部科学大臣賞受賞、13年に第62回横浜文化賞受賞。

日本にクラシックバレエが伝わりおよそ100年。世界で活躍する舞踊家の中村恩恵さんをディレクターに迎え、さまざまにダンスと向き合うプログラムが横浜赤レンガ倉庫1号館で行われる。秋に行なわれる新作公演「Silent Songs」に注目が集まる。

わたしも踊りたい

 横浜市戸塚区で生まれ、ヴァイオリン製作者だった父の仕事の関係で、3歳から少しの間イタリアに住んでいました。
 イタリアでテレビを見ていた時、天気予報の後ろに踊りの映像が流れていました。どんな踊りだったのかわかりませんが、それを見て「こういうのがやりたい」と言ったそうです。その後、日本に帰国してから小倉礼子先生を紹介していただき、5歳からクラシックバレエを学び始めました。はじめは緊張して身体が動かなくなり、ずっとバーにしがみついていたのを覚えています(笑)
 レッスンの無い日には、読書をしたり、外でもよく遊びました。戸塚は自然の多いところでしたので、空き地に秘密基地を作ったり、ガケ滑りをしたり、時間を忘れて遊んでいました。

プロとして世界へ

 バレエを続けることに母は反対で「世界で認められなかったら辞めなさい」と言われました。ローザンヌ国際バレエコンクールで賞を取れていなかったら辞めていたかもしれません。幸い辞めずに、そしてバレエ団に就職もできました。
 ヨーロッパは、国や王室お抱えのバレエ団も多く、国際交流など社会的な役割も決まっています。ダンサーはサラリーマンのようなイメージで、労働基準も明確でした。舞踊が職業として認められています。
 日本の場合は、自分で劇場を借りて主催公演をすることが可能で、自分たちで行動する自由があります。ヨーロッパと違うことを模索するのであれば、日本はチャレンジできる環境だと思います。
 ヨーロッパでも、日本でも活動してきましたが、人生って何が成功で何が失敗かということは無いと思います。自分が突き動かされるところに向かい合い、端から見ると失敗にみえても、実感のある生き方ができるよう、自分で決めて生きて行くのが大事なことだと感じます。

コンテンポラリーダンス

 見た方から「どう捉えていいかわからない」とよく言われます。コンテンポラリーダンスというと現代の手法で作られているものはなんでもそう呼ばれます。クラシックバレエとして完成されたバレエも現代的に、身体の使い方、表現の内容、題材、衣装などが進化しているのです。
 ヨーロッパでも、クラシックバレエの継承を大事にする部分と、進化を追う部分があり、ダンサーは古典も現代的なものも、どちらも踊れるのが大前提です。現代になるほど他の踊り、フォークダンスやストリートやタップなど、いろいろな踊りが含まれて多様化しています。私はバレエの出身なのでバレエの最も現代的な表現を模索しています。

次世代につなぐ

 今年の5月から秋にかけて横浜赤レンガ倉庫1号館で行われるダンス・ワーキング・プログラムのディレクターを務めさせていただいています。たくさんの方に、様々な切り口でダンスに触れていただきたい、また「次世代育成」もテーマの一つです。
 踊りを覚えるときは、作品の捉え方にはじまり、コーチに手取り足取り教えてもらって仕上がります。時間をかけて、細かく検証しながら人から人へ伝わっていくものです。
 舞踊は表記が難しく言葉でも説明しにくい。噛み砕き、プロセスを大事にして初めて一つの姿が出来上がります。16世紀から今日まで、受け継がれてきたバレエの流れを繋ぐことも、私たちの世代の役割だと思っています。
 8月には、5歳〜小学1年生の子どもを対象にした親子プログラムもあります。この年齢の子どもは就学し集団生活を学びます。成長する過程でもありますが、もって生まれた大きな可能性を押さえつけてしまうこともあります。踊りを通して、自分の発想を表現する大切さを伝えたい。自由な発想を大事にして、学校生活でも自分らしさを大切に過ごせるようにと企画しました。

ダンスは人間への贈り物

 11月には、新作の公演も行います。今回見ていただきたいのは、舞踊が時代と共にどう変化したか。噛み砕いて丁寧に表現したいです。
 現代作品は難解といわれますが、楽しんでいただける作品を創りたいと思います。
 また、自分が実際踊らずとも、踊っている人を見るだけで脳がシンクロナイズされ、同じ体験をした気持ちになると言われています。
 踊っていると、手を上げたり、空をすっと見上げたりしますが、日常ではあまりしませんよね。でも、空を見上げてみるってステキなこと、人間に与えられた豊かな贈り物だと思います。


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